「蓋し」とは?この見かけない言葉の意味・読み方・使い方まで総特集
日常の会話や文章の中で「蓋し」という言葉に出会ったことはありますか?
ちなみに「ふたし」ではありませんよ。
古風な響きを持つこの言葉「蓋し」は、現代の日本語ではあまり見かけないものの、歴史や文学の中で重要な役割を果たしてきました。
「蓋し」とは何を意味し、読み方は何なのか、そして、どのように使われているのでしょうか?
この総特集では、「蓋し」という言葉の意味や読み方、その語源から、背景にある歴史や文学的な価値についても深掘りし、現代における使い方のヒントも紹介していきます。
古典的な日本語に興味がある方から、文章表現の幅を広げたい方まで必見の内容です。
どうか最後まで、ご一緒にご確認ください。
「蓋し」の意味・読み方
「蓋し」の意味と読み方からみていきましょう。
「蓋し」の読み方
最初に、「蓋し」の読み方です。
けだし
「けだし」と読みます。
余り、聞いたことがないでしょう。
この言葉、古典などで使われる言葉なんですよ。
「蓋し」の意味
続けて、国語辞典から、その意味を見ていきます。
けだし【▽蓋し】 の解説|goo辞書
- 物事を確信をもって推定する意を表す。まさしく。たしかに。思うに。
- (あとに推量の意味を表す語を伴って)もしかすると。あるいは。
- (あとに仮定の意味を表す語を伴って)万が一。もしも。ひょっとして。
- おおよそ。大略。多く、漢文訓読文や和漢混淆文などに用いる。
4つの意味があります。
トップは、「まさしく。たしかに。思うに」という確信をもって推定する意です。
残りの3つは、「もしかすると。あるいは。」「万が一。もしも。ひょっとして。」「おおよそ。大略。多く」と、推量や仮定の意を持つんですね。
この4つの意味を見ていくと、その例から面白いことが分かりました。
意味の2~4は、古語即ち、古典で使われているんですよ。
それを確認するため、学研全訳古語辞典を引いてみました。
蓋しの意味|学研全訳古語辞典(weblio辞書)
- 〔下に疑問の語を伴って〕ひょっとすると。あるいは。
- 〔下に仮定の表現を伴って〕もしかして。万一。
- おおかた。多分。大体。
ご覧のように、3つの意味があり、表現は多少違いますが、上記国語辞典の意味の、それぞれ2~4に合致することが分かると思います。
ここから考えると、現代での「蓋し」は、国語辞典の1番目の意味、即ち、「物事を確信をもって推定する意を表す」と理解すればいいでしょう。
たとえば、「蓋し、その通りであろう」という文章は、「まさしく(たしかにor思うに)その通りであろう」になるわけです。
古語で使用されていた意味もみておきましょう。
- もしかすると。あるいは。
- 万が一。もしも。ひょっとして。
- おおよそ。大略。多分。
以上の3つですね。
上述した現代の意味は、「まさしく」「たしかに」「思うに」と、決めつけるようなところがあったのですが、古語の意味は、それぞれ、疑問や仮定、大体のような意味合いが強いです。
断定はしないで、「多分こうなのかな」と考える際に使用していたんですね。
そう考えると、現代と過去では真逆の考え方だったと言ってもいいかもしれませんね。
「蓋し」の語源とは
「蓋し」の意味・読み方が分かったところで、語源を見ていきましょう。
新明解語源辞典では、この「蓋し」の意味を「思うに」としています。
まさしく、上述したように、国語辞典の意味のトップにあった内容と一致していました。
さて、「蓋し」の語源なんですが、こう言い切っています。
語源不明
語源は不明ですが、次の二つの説があることは知っておきましょう。
- 気慥(けたし)の儀(大言海)
- きちんと四角である意のケダ(角)の副詞化(岩波古語辞典補訂版)
「気慥(けたし)」とは、「気のせいかおそらく」という意味ですね。
2番目の説は、「正(まさ)しく,定めて,きっと」の意味だったのですが、仮定の表現と共に使われるうちに、「おそらく、たぶん、万一」と意味が広がっていったと考えられます。
参考:新明解語源辞典
「蓋し」を使った例文
この章では、「蓋し」を使用した例文を見ていきましょう。
意味は4つありましたので、上述のgoo辞書の意味に沿って例文を示した意と思います。
なお、2~4の意味は、古典から抽出してきます。
- 蓋し名言である
- 百足らず八十隅坂に手向けせば過ぎにし人に逢はむかも(万葉集・四二七)
- わが背子しけだしまからば白妙の袖を振らさね見つつしのはむ(万葉集・三七二五)
- 風の力けだし少なし(源氏物語・少女)
トップの例文から順に内容を確認していきます。
1.ですが、「蓋し」を聞いたことがなくとも、この「けだし名言」という言葉は聞いたことがありませんか。
この言葉は、日本資本主義の父と称される渋沢栄一氏、新札の顔にもなっている方のモノです。
これは、「まさしく名言」という意味ですね。
2.は、万葉集巻3の四二七で出てくる歌です。
読み方は「ももたらずやそすみさかにたむけせばすぎにしひとにけだしあはむかも」です。
意味は、「百に足りない八十・多くの隅の墨坂に手向けをしたならば、亡くなった人にあるいは逢えるだろうか。」になります。
「けだし」は、ここにあるように「あるいは」の意を持たせています。
3.は、万葉集巻15の三七二五に載っている歌です。
読み方は「わがせこしけだしまからばしろたへのそでをふらさねみつつしのはむ」です。
意味は、「あなたがひょっとして鄙(ひな)に下るようなことがあったら、白妙の袖をお振りください。見ながらお慕いしましょう。」になります。
「けだし」は、「ひょっとして」の意を持たせています。
4.は、源氏物語・少女から。
読み方は「かぜのちからけだしすくなし」です。
意味は、「風の力は多分少ない」になります。
「けだし」は、「多分」の意を持たせています。
以上、「蓋し」の使い方を見てきました。
うーん、現代では、この言葉、使いシーンは、ほとんどないような気がしますね。
参考:万葉百貨、蓋しの意味|学研全訳古語辞典(weblio辞書)
おまけ:「蓋し」いろいろ
「蓋し」の雑学を思うままに書いてみます。
「蓋し」の読み方
「蓋し」の読み方は「けだし」でした。
しかし、Xで、つぶやきを見ていたら、「蓋し」を「ふたし」と読ませているモノが多いのに気がつきました!
これらのつぶやき、「蓋しちゃう」「蓋しとかなアカン」「蓋しまる」「蓋してる」と、もともと「蓋(ふた)」という意味で使ってるんですよね。
「蓋し」で止めるつもりはないので、問題ありませんが…。
「蓋し」に似た用語
「蓋し」に似た用語として、次の二つがありました。
- 蓋しく(けだしく):(あとに推量の意味を表す語を伴って)おそらく。ひょっとして。
- 蓋しくも(けだしくも):①(あとに推量または疑問の意味を表す語を伴って)おそらく。ひょっとしたら。②(あとに仮定の意味を表す語を伴って)もしも。
それぞれ、万葉集で歌が出て来るようです。
意味は、基本的に「蓋し」と同じだと古語辞典に出ています。
参考:goo辞書
最後に
「蓋し」という、余り見たことのない言葉についてみてきました。
「蓋し」の意味や読み方、その語源から、背景にある歴史や文学的な価値についても深掘りしました。
4つの意味を持っていますが、現代では、その内の一つしか使う意味がないようです。
例文についても解説しましたが、3つの意味では古典を材料にするしかありませんでしたね。
雑学として、頭に留めていただければ十分でしょう。
※気づけば、「言葉の意味」の記事も増えてきています
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